個人のマイホーム購入も同じだが、不動産を買うとき、自己資金に加えて多額の借り入れをするのがほとんどだからだ。
ABCファンドが初期に必要だった六百億円のうち、半分の三百億円を自己資金、残り三百億円を借り入れで賄ったとすると、年間収入五十億円が六年余り続けば、借り入れと利息を払い終える。
低金利時代の借り入れだから、そう利息も大きくない。
この時点で、ABCファンドは、タワの資産価値を三百億円(初期投資した自己資金)より大幅に高く見積もってくれる買い手が現れれば、売却する選択肢もある。
人気のある商業地にある築十年も経たない複合ビルだから、まだ十年や二十年、賃料収入も年五十億円の水準を保てると予測できれば、五百億円、あるいは六百億円という買い値が付くかもしれない。
将来も自分で賃料収入を受け取ることを選ぶか、さっさと現金化したほうが有利なのか現実のファンドはもっと短期間で勝負する。
三百億円のファンドのカネを使ってタワを完成させ、六百億円で売却し、投資家へ分配するまで数年で済ませれば、年率二O%程度の利回りを上げましたと投資家向けに宣伝できる。
究極的には、タワを完成させる前にすぐ、土地と(建設途中の)建物を買った値段より二O%高く転売できれば良いのだが、そんなことは起こりにくい。
不良債権から取り出す不動産には、この例で追加投資をして建物を完成させ、テナントを集めたように、なんらかの手を加えることになる。
市有者がいるなどの法律でクリアする問題がなくても、ある一定期間、管理の状態が低下していることが一般的だからだ。不良債権ビジネスの参加企業からは、「買って、バリュアップ(価値向上)して、売る」という単純化した仕事の説明を聞くことが多い。
株式や国債など普通の証券投資が、「買って、保有して、売る」という作業の流れであるのと比べると、不動産ファンドはバリュアップすることに特徴がある。
手を加え、力ずくで投資効果を上げているともいえるかもしれない。
そんな不動産狙いだった不良債権ビジネスが、二年に大きく変身し始めた。
外資系ファンド、シンプルな不動産目当てのビジネスに旨みが減る一方で、政府が不良債権処理を促進する方針を何度も打ち出したことが後押しとなって、新たな不良債権ビジネスが生まれたのだ。
企業、あるいはその一部である事業の再生・再建だ。
RCCと入り乱れて不良債権買いの競争が激化し、不良債権処理を加速するためには、法的に破綻を認定されるか、そうならざるをえないと誰もが見る不振企業だけを対象にしているわけにはいかない。
こうした破綻・破綻候補企業が生み出す完全な不良債権の上の層には、アがあり、そこにも破綻候補企業が合まれいる。
そこの企業群を再建しないと、アから下へ来て、不良債権が増える。
逆に、再建に成功すれば、処理すべき不良債権は減るかもしれない。
金融庁が公表している金融検査マニュアルは、「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」という五段階の債務者区分を求めている。
このうち約束どおり返済が続いている「正常先」はもちろん不良債権ではない。
経営破綻予備軍の「破綻懸念先」以下は、全額の回収は不可能と判断できているので、完全な不良債権だ。
問題はその間にある「要注意先」だ。
ここが広大なグレエリアである。
マニュアルでは、「要注意先」について、金利減免など貸し出し条件の変更が行われたことや、返済に延滞があることなどを例示している。
簡単に言うと「要注意先」は、銀行から見て、融資条件を変更したので返済されるメドがついている融資先企業のこと。
ここには、週刊誌などがよく書く「大手三十社」や「大手五十社」という問題企業が入っている。
「要注意先」が広すぎるため、実は「破綻懸念先」にあるはずの企業が合まれいるのでは、との不信感が消えない。
破綻したMのように、ここに区分されていた大企業が破綻した例もある。
このため、金融庁は「要注意先」のうち、特に業況が不安定であるか、財務内零に問題がある債務者を「要管理先」として管理し、引当金をきちんと積み増すことを求めるようになった。
同庁「金融再生プログラム」でも、「主要行において要管理先の大口債務者についてはDCF(ディスカウント・キャッシュ方式を基礎とした個別的引当を原則とし、早急に具体的手法を検討する」と「要管理先」が資産査定厳格化のタゲットとなった。
銀行にとっては、大きな金額の手当てが必要な引当金の積み増しをする前に、努力してみたいことがある。
個々の融資先企業の経営再建を助けること。
うまくいけば、融資先企業が少し立ち直り、「要管理先」から「(問題の小さい)要注意先」へ、また「要注意先」から「正常先」へランクアップすることもありうる。
そうすれば、処理しなければならない不良債権が減り、引当金の積み増しが必要でなくなる。
銀行が融資先企業の再建を助ける作業を本格化したことを見て、興ってきたのが企業再生ビジネスだ。
経営改善から銀行との返済条件緩和交渉まで指導するコンサルタント、返済条件緩和さえ得られれば自立できる企業への投資や融資、といった仕事をする企業・金融機関が急速に増えた。
たとえば、企業再生コンサルタントは、銀行と融資先企業との聞に入って活動する。
対象企業のために経営再建計画をしっかり作ったうえで、債権放棄を含め融資条件を緩めてくれるよう銀行と交渉する。
銀行側も、個々の融資先すべてに対応できないが、コンサルタントから再建策の提示があれば、話に乗りやすい。
また、銀行と融資先企業の話し合いがこじれていることが結構あるが、第三者のコンサルタントが参加すれば、条件交渉を再スタトしやすいこともあるだろう。
もっと目立っているのが企業再生ファンド。
銀行から対象企業向けの債権を買い取ることや出資によって大口債権者や大株主となり、経営再建を指導することで、企業の価値を上げるファンドのこと。
二OO一年秋に不振企業の再建にファンドを活用することを政府が打ち出し、予算枠を得た日本政策投資銀行が、出資を含め、民間のファンド作りを後押しした。
同様に政府の意向を受けたRCCも、外資系投資銀行などと共に企業再生ファンドを設立。
さらに、外資系ファンドも参入し、二OO二年中に、企業再生ファンド作りが盛んになった。
二OO二年十一月、日本R債権回収というサビサが営業許可を受けた。
企業再生ファンド「日本Rファンド」に付随して活動するサビサで、担保不動産を目当てにしていないし、金融機関・ノンバンクの回収業務代行でもない、まったく新しいタイプのサビサだ。
日本Rファンドには、東京M銀行や三井S銀行、それに地方銀行多数が出資している。
銀行が再生できそうだと判断する企業について、同ファンドと交渉し、債権の買い取りを求める。
ファンド側も再生できると判断し、債権の売買価格が折り合えば、対象企業は同ファンドの管理下で再生するという仕組みになっている。
日本R債権回収は、その際の債権買い取りを効率化するためだけに、設立されたサビサだ。
銀行から債権を買い集めたい。
だが、ここでまた問題がある。
銀行の債権には、根抵当権という強い抵当権が設定されているケスが大半なのだ。
この根抵当権付きの債権を銀行がだれかに譲渡する場合、債務者の同意が必要となる。
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